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大阪地方裁判所 平成2年(ワ)9186号 判決 1993年5月18日

原告

谷口京子

被告

富士火災海上保険株式会社

主文

一  被告は、原告に対し、六七万円及びこれに対する平成二年一二月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを七分し、その六を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、四六九万円及びこれに対する平成二年一二月一二日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  事案の概要

普通貨物自動車と自転車とが衝突し、自転車の運転者が負傷(下顎骨骨折、頸部挫傷、腰部捻挫、大後頭神経痛)した事故に関し、同運転者が同自動車の保有者が締結していた自動車損害賠償責任保険契約(以下「自賠責保険契約」という。)の保険会社に対し、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)一六条一項に基づき、後遺障害として咀嚼機能障害、頸部痛、手のしびれ等が残存しており、それらが同法施行令別表の一〇級二号、一二級一二号(併合九級)に該当することを理由に、保険金の支払を求め提訴した事案である。

二  争いのない事実等(証拠摘示のない事実は争いのない事実である。)

1  保険契約

訴外タカエシゲジ(以下「訴外タカエ」という。)は、普通貨物自動車(なにわ四四そ九〇六〇、以下「被告車」という。)を保有し、被告との間で交通事故による自動車損害賠償保障法施行令(平成元年政令一九八号により改正前のもの、以下同じ。以下「自賠法施行令」という。)二条別表後遺障害等級表に定める後遺障害が発生した場合には、同条で定められた限度額の範囲内で保険金を支払う旨の自動車損害賠償責任保険契約を締結していた。右契約により、被告は、本件事故により生じた損害につき保険金支払義務を負担している。

2  保険事故の発生及び責任原因

次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 日時 昭和六三年一二月二二日午前九時五五分ころ

(二) 場所 大阪市大淀区中津一丁目一八番一八号先路上(以下「本件事故現場」という。)

(三) 被害車 原告運転の足踏式自転車(以下「原告車」という。)

(四) 事故車 訴外北園好が運転し、訴外タカエシゲジが保有していた被告車

(五) 態様 黄信号で交差点に進入した被告車が自転車横断帯を横断していた原告車に衝突したもの(甲第一〇号証)

訴外タカエシゲジは、被告車を保有し、自己のため運行の用に供していたものであるから自賠法三条に基づき、本件事故により生じた損害を賠償する責任がある。

3  原告の受傷

原告は、本件事故により、下顎骨骨折、頸部挫傷、腰部捻挫、大後頭神経痛の傷害を負い、昭和六三年一二月二二日から平成元年一一月七日までの間、入通院し、治療を受けた(入院三一日、実通院日数一〇〇日)。

三  争点

本件の主たる争点は、原告に自賠法施行令別表の一〇級二号、一二級一二号(併合九級)に該当する各後遺障害(前者が咀嚼機能障害、後者が頸部痛、手のしびれ等)が残存しているか否かであり、これに関する原・被告の主張の要旨は、次のとおりである。

1  原告の主張

(一) 原告に残存する咀嚼機能障害は、次のとおりである。

(1) 小さい固形食は一応摂取できるものの、リンゴなどを食べるため口を大きく開口することができず、大きく開口すると、周囲の人に聞き取れるような「カキ」という音が顎の部分で発生するとともに耳の下から顎にかけて大きな痛みが走る。

(2) するめ、ガムなど咀嚼に充分な時間を要するものを食べることが困難である。顎がすぐにだるくなり、咀嚼を長く続けることができない。

(3) 恒常的に顎の部分に違和感があり、気持が悪い。

(4) 口の開閉に伴う左右の顎の動きに格差がある。

(5) 咀嚼中に顎関節部に痛みがあるとともに顎関節に雑音がある。

天満労働基準監督署長は、右のような原告の障害をとらえ、障害等級一〇級の認定をしているのであり、行岡病院口外歯科医師嶋田惣四郎(以下「嶋田医師」という。)も咀嚼機能障害を後遺しているとの診断を下しているのであるから、原告に咀嚼機能障害が残存することは明らかである。

(二) 原告に残存する神経症状は、次のとおりである。

(1) 頭部及び頸部痛が残存している。

(2) 頸部に非常なだるさが残存しており、針治療を行うと軽快する。

(3) 右手のしびれが残存している。

(4) 後屈にて疼痛が出現する。

(5) その他眼球内に違和感とだるさがあり、長く目を開けておけないという症状も存する。

したがつて、原告に頑固な神経症状が残存していることは明らかである。

2  被告の主張

原告には、原告の歯の上下咬合・排列状態は正常であり、下顎の開閉運動は正常で開口障害も認められず、口の開閉時、顎関節に雑音、クリツク音がすることはあつてもそれが咀嚼機能に障害をもたらすことはなく、開口時の痛み等も通常の食事をとることを制限するものではなく、長時間の咀嚼の際の痛みも原告が長時間噛むリハビリをしていないことから生ずるものに過ぎず、咀嚼機能の障害は認められない。

原告の頭部、頸部痛は、平成元年六月六日から症状固定日である同年(八)月(七)日までの二か月間、運動療法、作業療法を繰り返しているだけで、医師の診断を受けたり、頸部痛、頭部痛を訴えた形跡はないし、これらの痛みに関する薬剤の投与も一切ない。現在原告に頸部痛、頭部痛があるとしても、その程度は軽微と考えざるを得ないし、その原因は大後頭部神経痛であり、同神経痛は交通事故等の外傷がなくても発生し得るものであるから、本件事故との因果関係は認め難い。原告は、右手の第二指、三指がはれているが、同症状は神経的支配の関係からみると医学的な説明ができないものであるから、この症状があるとしても自賠責等級一四級一〇号には該当しない。後屈での疼痛も原告の自動によるものに過ぎず、客観性を欠いており、不定愁訴についてもスパーリングテスト以外に他覚的所見に異常がない。しかも、後遺障害診断書によれば、現存する自己症状は、緩徐ではあるが軽快する可能性があるものとされていることに照すと、原告の後遺障害は自賠責等級一四級一〇号にすら該当しないものと解するのが相当である。

第三争点に対する判断

一  保険事故の態様とその後の治療経過

前記争いのない事実に加え、後掲の各証拠及び証人森井章司、同茂籠正人の各証言、原告本人尋問の結果を総合すると、次の事実が認められる。

1  事故態様

本件事故現場は、市街地の南北に通じる片側二車線(北行車線幅員計六・五メートル)の道路(以下「本件道路」という。)と北東及び南東に伸びる道路との交差点(以下「本件交差点」という。)にある。本件交差点の南北には自転車横断帯及び横断歩道があり、同交差点の交通は信号機により交通整理がなされている。本件道路は制限速度が時速五〇キロメートルであり、交通は頻繁であり、路面はアスフアルトで舗装されている(甲第一〇号証)。

訴外北園好(以下「北園」という。)は、昭和六三年一二月二二日午前九時五五分ころ、普通貨物自動車(なにわ四四そ九〇六〇号、以下「北園車」という。)を運転し、本件道路を南から北へ走行中、本件交差点にさしかかり、黄信号で本件交差点南側自転車横断帯、横断歩道を通過して同交差点に進入し、途中対面信号が赤になつた以降もそのまま北進し続けたところ、進路前方の同交差点北側自転車横断帯を西から東に自転車で横断中の原告を一二・八メートルに接近してようやく発見し急制動の措置を講じたが及ばず、自車前部を北園車に衝突させて原告を転倒させ、原告を負傷させたものである(同号証)。

2  原告の受傷と治療経過

原告が、本件事故により、下顎骨骨折、頸部挫傷、腰部捻挫、大後頭神経痛の傷害を負い、昭和六三年一二月二二日から平成元年一一月七日までの間、入通院し、治療を受けた(入院三一日、実通院日数一〇〇日)ことは当事者間に争いがない。

右期間の治療経過をより子細に検討すると、次のとおりであることが認められる。

(整形外科関係)

原告は、昭和六三年一二月二二日、行岡病院で診察を受け、下顎骨骨折(右側関節頭外傷による咬合の不整)、下顎打撲挫創、右大腿・下腿部打撲、擦過創、頸部挫傷、肋骨骨折の疑い、腰部捻挫、大後頭神経痛、右顎関節症、下顎骨骨折後の顎関節症の診断を受け、下顎は六針縫合し、その他の部位について通院治療を受けた。その際、原告は、頭部打撲はなく、吐き気もなく、意識は清明であり、反射も正常であつた。原告は、同月二三日、胸部レントゲン撮影を受けたところ、肋骨の骨折はなく、椎間腔狭小は認められたものの、検査の結果、神経学的所見のすべてについて異常は認められなかつた。同日、原告の訴えていた症状は、腰部の圧痛と右下腿部の知覚鈍麻、しびれであり、以前より少しはあつたが、増強しているとのことであつた。その後、原告は、同月二四日、二六日、腰部痛及び頸部痛を訴え、平成元年一月一〇日、開口し難い旨を訴え、同月一七日、頸部の圧痛と目がしよぼしよぼする旨を訴えたが、頸部に知覚異常は認められなかつた。原告は、同月一八日、運動療法、作業療法等の通院治療を受け始めた(甲第五号証)。

その後、原告は、同病院で運動療法、作業療法を平成元年八月七日まで続け、同日、症状が固定し、反射、ホフマン、ジヤクソンの各テストに異常はなかつたが、スパーリングテスト時(側屈における伸展時)には痛みを訴えていた(甲第五号証)。

なお、原告には、下顎部に約二・五センチメートルの瘢痕が残存するが、色素沈着も薄く目立たない程度であつた(同号証、甲第八号証)。

(歯科関係)

原告は、本件事故後一か月が経過しても歯の咬合がもとに戻らなかつたため、顎を固定して治療を受けるべく、平成元年一月二四日から同年二月二三日までの間、行岡病院に入院した。原告は、同月二一日、上下の顎関節を固定していたワイヤーをはずされ、同日の最大開口範囲は一七ミリメートルであり、開口時の顎関節の痛みを訴えていたが、同月二二日には右範囲は二八ミリメートルに、同月二三日には三〇ミリメートルに拡大し、開口時の顎関節の痛みも消失していた(甲第二号証)。

原告は、その後、同病院に通院し、同月二七日、開口時に顎関節が引っ張るような感じがあり痛みが少しあり、同年三月二日、最大開口範囲は三一ミリメートルになつたが、時々「カクツ」というクリツク音が生じ、同月七日には、クリツク音の他に「ザクザク」という音も生じると訴えた。原告は、同月一三日、噛む時、クリツク音と左側に雑音が生じると訴えたが、痛みはあるかないか不明という状態であり、同月二〇日、左側に雑音があり、痛みがあると訴えたが、最大開口範囲は三三ミリメートルに広がつていた。原告は、同年五月二六日、左顎に雑音が生じる旨訴えたが、痛みはないとのことであり、開口障害は認められなかつた。

なお、原告は、平成二年四月二三日、右顎関節の開口時、特にするめ、ガム等を長時間咀嚼する際の疼痛と左側のクリツク音を訴えたが、最大開口範囲は痛みを感じない範囲で三〇ミリメートル、痛みを我慢すれば四三ミリメートルあるとのことであつた(甲第六号証)。

3  原告の後遺障害の程度に関する各主治医の診断、証言

行岡病院において整形外科に関する主治医であつた森井医師は、同診断書にて、主訴として頭部及び頸部痛(週二、三回)、右手第二、三指に軽度しびれ感があるが、病的反射、ジヤクソンテストは正常であり、スパーリングテスト時及び後屈にて疼痛が出現するものの、現存する自己症状は、緩徐ではあるが軽快する可能性がある旨の診断をし(甲第七号証)、当法廷において、原告の後遺障害の程度は、頭部及び頸部痛、右手第二、三指に軽度しびれ感(ただし、このしびれ感は平成元年六月五日以降訴え始めたものであり、何故にこれらの指のみについてしびれ感が生ずるのかは医学的にみて判断が困難である。)を訴えているが、病的反射、ジヤクソンテストは正常であり、スパーリングテスト時及び後屈にて疼痛が出現すると訴えているものの、自覚症状が主であり、症状固定時存在した症状は、当初と比較すると軽快しており、右固定後も緩徐ではあるが軽快する可能性があつた旨証言している。

また、行岡病院において歯科に関する主治医であつた茂籠医師は、平成元年八月七日、後遺障害診断書にて、顎運動時に顎関節痛、顎関節雑音がある旨の診断をし、当法廷において、症状固定時、顎運動時に顎関節痛、顎関節雑音があつたが、このことが咀嚼機能に障害を及ぼすとは考えられず、また、開口範囲ももともと最大三〇ミリメートルしか開かない者も多い上、原告の場合は最大四三ミリメートルと女性にしてはやや大きい数値が出ており通常の食事を摂取する際に支障はなく、するめやガムなどを長時間咀嚼する際の痛みもリハビリを続ければ治る可能性がある旨証言している。

二  原告の後遺障害の程度に関する判断

前記認定事実に基づき、原告の後遺障害の程度を判断すると以下のとおりである。

1  神経障害について

原告は頸椎に関し、自賠法施行令別表一二級一二号にいう神経障害が存する旨主張するので、この点につき検討する。

前記認定のとおり、原告には、頭部・頸部痛が認められ、かつ、右手の第二指、第三指にしびれが残存しており、後屈での疼痛が認められる(原告は、目の症状についても異常を訴えるが、これを認めるに客観的足る証拠はない。)。本件事故とこれらの症状との因果関係が一義的明らかであるとはいえないが、これらの症状は本件事故後に生じたものと認められること、本件事故による受傷内容が下顎骨折の他、頸部挫傷、腰部捻挫、大後頭神経痛であることは当事者間に争いがないところ、頸部挫傷等により頭部・頸部痛が、腰部挫傷により後屈での疼痛が、大後頭神経痛により右手の第二指、第三指がそれぞれ生じ得る可能性が存することを考慮すると、これらの症状は本件事故と相当因果関係のある後遺障害と認められる。

しかし、頭痛、頸部痛については、平成元年六月六日から症状固定日である同年八月七日までの二か月間、医師の診断を受けたり、これらの症状を訴えたりした形跡はうかがえず、対応する薬剤の投与もないこと、これらの症状は、訴えた始めた当初と比較すると症状固定時には相当程度軽快していること、病的反射、ジヤクソンテストは正常であること、右手の第二、第三指のしびれ、スパーリングテスト時及び後屈における疼痛の出現も労働能力にさほどの影響をもたらすものとは認め難いこと、下顎部に約二・五センチメートルの瘢痕があるが、色素沈着も薄く目立たない程度であることなどを総合すると、原告の右後遺障害の程度は、自賠法施行令別表の一二級の一二の局部に頑固な神経症状を残すとまでは認め難く、同表一四級一〇号の神経症状を残す場合に該当するにすぎないと認められる。

2  咀嚼機能の障害について

次に、原告は後遺障害等級一〇級二号にいう咀嚼機能の障害が存する旨主張するのでこの点につき検討する。

前記認定のとおり、原告には歯の上下咬合、排列に支障は認められず、下顎の開閉運動も開口障害は認められないこと、開口時に雑音、クリツク音が認められることはあるが、かかる音のすることが咀嚼機能に支障を及ぼすとは認め難いこと、原告は、まれに顎関節痛が生じることがあり、三〇ミリメートルを超えて開口した時や長時間咀嚼した時に痛みが生ずることが認められるが、通常の食事において三〇ミリメートルを超えて開口することが必要とは認め難いこと、また、長時間咀嚼した際に生ずる痛みはむしろ長時間の咀嚼訓練が不足していることから生ずるものと認められることなどを総合すると、原告には労働能力に影響をもたらす程度の咀嚼機能に障害が存するとは認め難い(なお、甲第一一号証によれば、原告は、天満労働基準監督署長により「そしやく又は言語の機能の障害を残すもの」に該当するとして労災補償においては一〇級の二に該当するものと認定されていることが認められるが、前記の諸事実に照らし、右認定は前記認定を左右するものではない。)。

三  損害

後掲の各証拠及び原告本人尋問の結果によれば、次の事実が認められる。

1  後遺障害に基づく逸失利益(請求額一七八万九五七八円)

原告は、昭和三三年一二月四日に生まれ、本件事故当時三〇歳であつたところ、昭和六二年夏ころから大阪市北区豊崎所在のスーパーマーケツト「サボイ」でレジ係として一日五時間程勤務していたところ(甲第一三号証)、甲第一二号証によれば、天満労働基準監督署は本件事故当時の原告の給付基礎日額を三二一〇円(年額に換算すると、一一七万一六五〇円)と認定して労災補償給付をしていることが認められる。本件事故の年である昭和六三年の賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計・女子労働者の三〇歳から三四歳までの平均賃金が二七九万五八〇〇円(日収に換算すると七六五九円、一円未満切り捨て、以下同じ)であることは当裁判所とつて顕著な事実であり、右金額及び当時の稼働時間等を考慮すると、原告が本件事故当時のレジ係の収入として主張する前記給付基礎日額の金額は不当に高額なものとはいえない。したがつて、原告の本件事故当時の日収は、少なくとも右三二一〇円を下回らなかつたものと推認するのが相当である。

前記認定事実に加え、労災補償において、労働基準監督局長通牒昭和三二年七月二日基発第五五一号により、後遺障害等級一四級の場合の労働能力喪失率が五パーセントとして取り扱われていることは当裁判所とつて顕著な事実であること、前記認定の後遺障害の内容、程度を考慮すると、原告の労働能力喪失は、本件事故によりその五パーセントを喪失し、さらに、原告の職業、年齢の他、前記認定のとおり、原告の主治医も前記症状は緩徐ではあるが軽快する可能性がある旨診断していることなどを総合すると、右喪失状態は、前記症状固日である平成元年八月七日以降、五年間は継続するものと認めるのが相当である。

以上に基づき、ホフマン方式を採用し、原告の後遺障害逸失利益の本件事故当時の現価を算定すると、次の算式のとおり二四万四九五一円となる。

3210×365×0.05×(5.1336-0.9523)=244951

2  慰謝料(請求額四六九万円)

本件事故の態様、前記後遺障害の内容、程度、原告の職業、年齢、本件に現れた諸事情を考慮すると、慰謝料としては、六七万円が相当と認められる。

3  損益相殺

原告が天満労働基準監督署長から障害給付一次金として九六万九四二〇円を受領していることは当事者間に争いがないが、同額は、その性質上、慰謝料以外で、かつ、性質、種類を同じくする損害項目から損益相殺するのが相当である。したがつて、前記二四万四九五一円から右障害給付一次金の額九六万九四二〇円を控除し(残額はないことになる。)、前記慰謝料六七万円からは控除しないこととすると、損害残額は六七万円となる。

四  被害者請求金額

自賠法施行令二条及び同条別表によれば、同表等級第一四号に該当する場合の保険金額は七五万円とされているから、原告は、自賠法一六条一項に基づき、同額の範囲内である前記六七万円を被告に対し請求できることになる。

五  まとめ

以上の次第で、原告の被告に対する請求は、六七万円及びこれに対する本訴状送達の翌日である平成二年一二月一二日から支払済みに至まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれらを認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 大沼洋一)

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